彼女から連絡はこなかった。

俺からも連絡しなかった。

不義理にお仕置きデートの約束は自然消滅させた。

そんなに何度も拒絶されて平気でいられるほど俺も強くない。

週末の夜には約束通り雪見ちゃんと会った。

隠れ家的なビストロを予約して、一緒にフランスワインを飲みながら食事をした。

雪見ちゃんが終始楽しそうだから本題に入れない。

食事をしたあとは静かに話せるようバーへ移動した。

向かい合ってより隣同士に並んで座った方が、雪見ちゃんの顔を見ずに聞けるから。

俺だって言いたくないけれど、聞かずにはいられない。

「あのさ、昔のこと聞いてもいい?」

「昔のこと?」

心の中で深呼吸する。

「もしかしてさ、あの時あの公園で会ったのって、雪見ちゃんだった?」

言い終わってから雪見ちゃんの顔を見る。

大きくて吸い込まれるような綺麗なブラウンの瞳で俺を見つめる。

けれど、カラコンが無機質すぎて感情まではわからない。

「あの公園? 先輩と公園で会ったことなんてあったかな?」

雪見ちゃんは小首を傾げながらきょとんとした顔で言った。

疑惑は消散した。

と同時に、俺の失恋は確定した。

いや、もう10年以上前に手紙の返事が来なかった時点で確定していた。

それをこんな今更グチグチと大阪から東京まで追いかけてくるなんて。

本当に馬鹿だ。

「いや、なんでもない。今言ったことは忘れて」

雪見ちゃんにそう言うと、ショートグラスに残っていたギムレットを飲み干した。