【十六夜月のラブレター another side】イケメンエリート営業部員入谷柊哉くんは拗らせすぎてる

薄暗い空間で、燭台の灯りに照らし出される彼女は美しかった。

何を頼んでいいか迷っているようだったから適当にアラカルトでオーダーする。

乾杯の酒はシャンパンだ。

「プレゼン成功にかんぱーい」

フルートグラスを鳴らして二人で乾杯する。

あー、すっげえ楽しいかも!

「本当にUSBの件、すみませんでした」

「もういいよ。それに隠した犯人わかっちゃったし」

「えっ!?」

「聞きたい? 犯人」

「……うん」

「課長だった」

「まさか!? あののんびり屋の課長が!?」

「あの日、徹夜明けで会社に行ってフロアに入ろうとしたら、君のデスクの上に課長がそっとUSBを置いているのを見たんだ。だから時間差でフロアに入って何も見てないフリして『なんだ、ここにあるじゃん』みたいな演技して。そのUSB使って配布資料作ったんだよ」

「そうだったんだ……でもなんで課長がそんなこと……」

「もしかしたら来年の定年まで俺に課長の座を奪われないよう、ミスさせようとしたのかも」

課長を恨む気持ちはないが、起こった事実としてはやはりいい気はしない。

すると物憂げな俺に気付いたのか彼女が必死になって訴えてきた。

「それは違います! 入谷さんのせいじゃなくて私のせいです! ほら私、課長が命懸けてた川柳コンクールで優秀賞獲っちゃったから」

そんな訳ない! 

そんな訳ないのがおかしくて。俺を庇おうとするその健気さが嬉しくて。

笑ってしまいそうになるのを抑えるため口に手の甲を当てたが、やっぱり吹き出してしまった。