スーツのジャケットを脱ぎ、ワイシャツの襟元の台襟ボタンを外し袖を腕まくりして、ダイニングテーブルに彼女と向かい合って座る。

2台のパソコンを使ってそれぞれ作業をはじめた。

彼女は俺が渡した営業資料を見ながら膨大なデータを入力してグラフや表を作成していった。

責任を感じているのだろう、脇目も振らず只管に入力してくれている。

ほんと真面目で責任感が強いんだから。

それにしても、机の上に置いていたUSBが失くなるなんておかしい。

きっと俺を陥れようとする社内の人物の仕業だろう。

でも異動してきたばかりだし犯人の目星など付けられない。

その一方で、不謹慎にも俺は少し喜んでいた。

彼女が俺の部屋にいる! 

パソコンに向かいつつ彼女の方をちらちらと見る。

これではいつも遠くから彼女を見てた中学生の頃と同じだ。

俺はずっと唯一無二の深沢月見として見ているのに。

雪見ちゃんと呼んだことを謝りたいけど気まずくなるのが怖い。

このまま何もなかったように普通に話せるようになれればいいのにな。

きっと彼女は俺がこんなこと考えているなんて夢にも思っていないだろう。

俺のこと憶えてないくらいだし。

それにしても頑張りすぎだ。もう午前1時を過ぎた。

ほんとはずっと一緒にいたいけれど、明日も仕事だし帰ってもらった方がいい。

無我夢中でパソコンに向かっている彼女を見つめる。

こんな俺のために頑張ってくれている姿に、愛おしい気持ちでいっぱいになる。

そっと立ち上がった俺は、彼女の頭の上にぽんと手を置いた。

「がんばりすぎだよ、月見ちゃん」

はっとしたように彼女が俺を見上げる。

「休憩もしないでさ。午前1時過ぎたよ」

「もうそんな時間!」

「あとは俺一人で大丈夫。タクシー呼ぶから帰った方がいいよ。心配だったら俺も一緒に行くから」

「でも、あともう少しで全部入力できそうです」

「それなら尚更あとは俺一人でできるから」

「わかりました。今日は本当にすみませんでした」

「そんなに謝らないで」

「でも、私が嫌われてるからかも……」

「どうして嫌われてるの? 俺のせい?」