営業部長と食事をしたあと、そのまま外回りの営業に出た。

異動したばかりで挨拶回りばかりだが、移動の間やカフェで休憩している間も考えるのは彼女のことばかりだった。

最後の挨拶回り先で大学時代の同級生と偶然再会し、その日の夜に二人で飲みに行った。

久しぶりの友人とお互いの近況や仕事の愚痴などを酒の肴に話が弾む。

21時を過ぎた頃、スマホを見ていなかったことに気付き鞄の中から取り出した。

ヤバイ! 彼女から何度も不在着信が残ってる!

きっと昨日のことだろう。

どうしよう、もう二度と会わないって最終通告されるかも……。

スマホを見た俺の狼狽ぶりには友人が「大丈夫か?」と尋ねてきたほどだった。

ここで折り返し電話するより家でじっくり話したい。

飲みは切り上げて帰宅することにした。

家に帰ったら彼女になんて電話しようか?

いや、まずは彼女の言い分を聞いてからだ。

許してもらえなかったら泣いて縋りついて許しを請う?

答えが見出せないまま街灯の光を頼りにマンションの前まで歩いていると、一生懸命こちらに向かって走ってくる女性がいる。

最初は暗くて分からなかったが、それはずっと頭の中で考え続けていた彼女の姿だった。

「深沢さん! どうしてここへ?」

「すみません、何度も電話したんですが繋がらなかったので……」

「ああ、ごめんね。電話もらってたのに。クライアントと飲みに行っててさ。家帰ってからちゃんとゆっくり電話したかったから」

「ごめんなさい!」

彼女が深く頭を下げた。