翌日、課長昇進の打診は断って東京支社に異動願いを出した。

そうしてやっと再会できたのに。

あんなふうに傷付けて泣かせてしまうなんて。

家に着いても後悔は止まらなかった。

スマホを見ては謝ろうかと何度も電話しようとしてはやめた。

もう満月は暗い叢雲に覆われてしまって、二度とその姿を見せてくれない気がした。

明日会社で会ったら彼女は俺をどんな顔で見るだろう?

いやもうきっと、俺の顔を見ようともしないだろう。

彼女にはそういう頑ななところがある。

下手に動けば動くほど完全に失ってしまうだろう。雁字搦めだ。

後悔したまま翌朝出勤すると、いつも一番遅いはずの彼女がもう来ていた。

本当はすぐにでも駆け寄って彼女に跪いて謝りたいくらいだったが、会社で話しかけることは禁止されている。

これ以上嫌われることはしたくない。

すると前川さんに話しかけられ彼女に謝る機会は完全に失った。

「深沢さん」

始業時間になると背後から彼女に声を掛けた。彼女の肩がビクッとする。

「これ、俺が作った明日のプレゼンの配布資料のUSBなんだけど。今日の終業時間までにプリントアウトして50部冊子として用意しておいてくれないかな? 一冊30ページくらいになると思う」

「はい、わかりました」

淡々と業務の指示をした。彼女も淡々と受けた。今の俺にはこうすることしかできなかった。

昼休憩の時間になると彼女はいつも通り小型のトートバッグを持ってフロアを出て行った。

きっと屋上へと向かったのだろう。

追いかけようかとも思ったが営業部長に昼食に誘われてできなかった。

でもこれでいいのかもしれない。時間と距離を置いた方が。