それでも話しかける勇気はなかった。

ほかの女の子にはどんな甘い言葉でも簡単に囁くことができるのに。

しかし親が別居することになって母親について急遽大阪へ引っ越すことになり、どうしても彼女と繋がりたくなった。

大阪へ行く前日。

彼女の下駄箱に手紙を入れて夜の公園に呼び出した。

来ないことも覚悟していたのに彼女は来てくれた。

柄にもなく緊張していた俺は、手紙を出すから返事が欲しいというのが精一杯だった。

彼女は笑顔で「うん」と返事をしてくれた。

嬉しかった。未来が希望に満ち溢れた。

それなのに。

彼女は俺の出した手紙に返事をくれなかった。

2度目に出した手紙の返事ももう来ないとあきらめた時、俺はまた「好き」を信じられない男に戻っていた。

それからは適当に女の子とは遊んだ。来る者拒まず去る者追わず。

「結婚して」と言われたことも何度もあったが、愛を信じていない俺がそんな大それた契約を結べるはずもない。

社会人になるとこれからは常に「結婚」という二文字が付き纏うことに嫌気が差して女遊びはやめた。

仕事は嫌いじゃないが大阪本社で最年少課長昇進の打診を受けた時は気乗りがしなかった。

他人からの嫉妬や僻みという感情を受け取ることに疲れていたのかもしれない。

そんな時だった。

彼女を再発見したのは。

社内報の写真と川柳を見て彼女だとすぐにわかった。

眼鏡をかけていなくても川柳がとても彼女らしかったから。

懐かしくなった。会いたくなった。

信じていないはずの「好き」という感情が蘇っていた。