「あ、今、口を滑らせましたね。そっか、中学生の時に会ってるんだ」

「誘導尋問上手いんだから。敏腕刑事さん」

彼女の塩対応は想定していたが、正直ここまで俺の存在感が薄かったとは思っていなかった。

道理で手紙の返事もこないはずだわ。

こうも現実として突き付けられるとやっぱり傷付く。

いや、本当は思い出してるけどいい思い出じゃないから、憶えてないフリをしているだけとか!?

結局彼女は思い出さないまま取調べのような食事会はお開きとなり、約束どおり会計を済ませた。

「すみません、本当に御馳走様でした」

「どういたしまして。俺さ、こっち来たばかりだから新しく接待用の店とか開拓したいんだよね。また付き合ってくれる?」

「でも私、お支払いできません……」

「大丈夫。御馳走するから」

「それじゃあ、投資の損益がなくなったら必ずお返しします」

「なら早くご褒美もらえるように、俺のこと早く思い出してね」

「はい!」

「家まで送ってくよ」

店から出た俺たちはタクシーを捕まえるため大通りに出た。

一台のタクシーがこちらに向かって走って来るのが見える。

彼女が捕まえようと道路の方へ出ようとした時、植え込みの木の根に躓いてバランスを崩し転びそうになった。

「あぶない!」

咄嗟に倒れそうになった彼女を後ろから抱き止める。

「あっ、ありがとうございます」

彼女は俺の腕から逃れようとしたが、俺は彼女を離さなかった。

そして、身体に回している両手にさらに強い力を込めて抱きしめたまま言った。

「ずっと忘れたことはなかったよ、雪見ちゃん」

「え?」

さあ、どんな反応をするの? 

「もう違いますってば!」ってかわいく怒る? 

それとも本当はもう思い出しててボロが出ちゃう?