「……僕、神城(かみしろ)(こう)っていいます」


不意に名乗られて、わたしは瞬きを繰り返した。

その名前に覚えはなかったけれど、どこか引っかかる響きだった。


神城煌と名乗る男は微笑んで、ほんの少し声を落とす。


「おねーさんに……あの味をきっかけに描いた作品をいつか見てほしいです」


胸がきゅっと縮んだ。

けれど彼はそれ以上、何も言わずに「じゃあ、今日はここまでにします」とあっさり引き下がった。


その潔さが逆に、背筋を冷たく撫でていった。


(どうして……わたしなんかに)