そうやって思考を止めた。
一度辞めてしまえば楽になれた。
空中の埃の如く漂っていれば、次第に何も感じなくなっていった。
感覚を手放してからどのくらいになるだろう。
もはや時の流れすら無意味だ。
恐れすらも凌駕した完全なる〝無〟の───筈だった。
それは、恐ろしいというよりも無響という静寂に包まれた寂しさや孤独感に似ていた。
寂しい?
───違う、考えるな。
ここから出る事なんて出来ないのだから。
祈っても無駄なのだから。
何も考えるな。
そう望んだのは、己自身だ。
どこか遠くで、声がした。
「お前は全てを、映してきたのか?」
「お前の主は──今、何処にいるんだろうな」
聞き慣れた、何処か安寧さえ思わせる声。
その声に心臓の辺りが、忘れかけていた傷が酷く痛み出す。
長く止まっていた機械が再び動き出す様な感覚に、熱い何かが溢れ出した───。



