アーサ王子の君影草 下巻 ~約束の箱庭にて、再び~

「……っ!」

「だからこそ、だ」

 再び、王の視線がハリを射抜く。

「ハリ君。君は安全な方法を知っているように見える」

 王としての勘の様なものなのだろうか。確信ではない。だが疑いでもない。ハリは小さく息を吐いた。

「もしそうであるならばスズラン嬢の首輪飾りは、どのようにして外されたのか。私はそれを知りたい」

「それは……お教え出来ません」

 即答だった。

「そうか。では、その外された首輪飾りの所在を聞こう。現在もそれを所持しているのは──君かな? ハリ君」

 やはりライオネルは責めなかった。ただ静かに問いを重ねる。彼の声がまだ耳の奥に残っている。淡々としていた筈の言葉が何故か胸の奥を擦った。

 ───命を代価にして。

(……関係ない)

 そう思ったはずなのに視線を伏せた瞬間、顬の奥がじくりと疼いた。理由の分からない痛み。思い出そうとする度、逃げる様に曖昧になる記憶。

(……僕は、何を知っている? それとも、逃げているだけなのか──)

 ───薄暗い回廊。冷たい床。誰かの背中。
 高い背丈。冷えた声。指先に絡む金の光。

「……見ないで」

 万理の声。震えているのに必死に笑おうとする顔。

「大丈夫。玻璃は何も心配しなくていいから」

 乾いた金属の嫌な音。
 白くて細い首には見知らぬ金細工の首輪飾り。

 今まで保たれていた何かが壊れた気がした。

(……嫌だ)

 ハリは強く目を閉じる。

(こんな記憶、僕は——)