アーサ王子の君影草 下巻 ~約束の箱庭にて、再び~

「幼い頃の記憶は命令と沈黙と、期待されなかった日々ばかりです。愛された覚えも、守られた覚えもない。幸せだった記憶は……双子の姉、万理と過ごした時間だけでした」

 顔を上げ、まっすぐにライオネルを見る。

「だから私は、封印が解かれることを望みません。
解かれれば……困る。私にとっても、恐らくこの世界にとっても」

 ライオネルは評価も否定もせず、しっかりとハリを見据えていた。ただ王としてではなく、息子を持つ父の眼差しの様にも感じた。

「……そうか」

「はい」

 短く、重い一言。

「それは、ルゥアンダ帝国の皇子としては不忠な答えかもしない。だが──リノ・フェンティスタに住まう一人の民としては実に正直で誠実だと私は思ったよ」

 ライオネルは視線を柔らかくする。

「君が封印を解きたいと言えば、私は止めねばならなかった。しかし……君は解きたくないと言った。それだけで君が危険な思想ではないと分かる」

 申し訳なさそうな笑みを浮かべるライオネル。

「とても酷な問いだったね。……すまなかった」

 ハリは一瞬、言葉を失う。責められる覚悟はしていた。利用されるであろう覚悟も。

「いいえ。陛下の主意の通りです……私は誰が見てもこの国の、いえ。リノ・フェンティスタの危険因子も同然でしょう」
(……この王は、私を〝息子〟として見ているわけじゃあない。しかし──〝人〟としては、見ている。でも、その優しさがかえって…)