アーサ王子の君影草 下巻 ~約束の箱庭にて、再び~

 他の者たちが去り、会議の間の扉が閉まる。

 広く感じていた議場が急に二人分の空間になる。
 ライオネルは最奥の椅子に腰かけたまま、口を閉ざしている。この沈黙がハリには既に試練の様に思えた。
 やがて、極限まで笑みを消した王が口を開く。

「──すまないね。一人残ってもらって」

「いえ」

 極力感情を殺し短く答える。

「あまり畏まらず、楽にして欲しい。──さて、早速だがハリ君。これは王としてではなく、一人の年長者として君に問う」

 一拍置くライオネル。
 逃げ道を与えない、けれど威圧もしない声音。だがそれはこの空間が彼の物なのだと嫌でも理解できた。
 固唾を呑み、ハリは静かに質問を待った。
 
「……もし、だ。封印されたジャコウ皇帝を解く〝鍵〟が君の手中に揃ったとしたら──君はそれを、解きたいかい? 彼は君の父だ。その血を引く者として……君自身は、どう望んでいる?」

 既に確信を持って言い放たれた言葉に、すぐには答えられなかった。ハリの中で沈黙と葛藤が渦巻く。
 

 頭の奥で父の声、冷たい視線。
 期待されなかった日々。
 そして──唯一、温度のあった記憶。万理(マリ)の笑顔。


 ハリは小さく息を吐き、逃げる為の言葉ではなく〝用意していた言葉〟を口にする。

「……解きたくありません」

 はっきりと、揺るぎなく。

「!」

「私は……あの男を〝父〟だと思えた事が一度もありません」

 少しだけ視線を伏せ、拳をそっと握る。