アーサ王子の君影草 下巻 ~約束の箱庭にて、再び~

 ジュリアンの証言が疑惑を生むも、誰もハリを問い詰めはしない。今はまだ、その時ではない──そう判断するだけの理由が、それぞれにあったから。

 これ以降は今後の予定について話し合いとなった。

「……以上が、直近で必要となる手続きと予定です。後ほど文書でもお渡ししますので、ご確認ください」

 コルトが手帳を閉じ、日程の調整事項を淡々と読み上げ終わる。会議の間の雰囲気はゆるやかに落ち着きを取り戻し、攻防や封印の話から一度、現実の足場へと戻る。ライオネルが最後に頷き、皆の緊張もほぐれていく。
 ユージーンは深く礼をして退出の準備をし、セィシェルはスズランを気遣いながら席を立つ。ラインアーサはその横でそっとスズランの肩に手を添え「もう心配ない」という眼差しを向けている。そんな温かな流れの中──動かない視線があった。
 ライオネルだ。彼は席を立とうとするハリに、穏やかな声をかける。

「ハリ君。……もし良かったら、このまま少し残ってくれないかな」

 柔らかい声と表情。けれどその下にある芯は鋭い。ハリは僅かに目を細めた。驚きではなく警戒心がそうさせた。

「……私に、何か?」

「うむ。大したことではない。個人的に、もう少し話しておきたいことがあってね」

 言葉は柔らかいが、逃がす気のない静かな圧。
 スズランが心配そうに振り返り、ラインアーサとセィシェルも思わず足を止める。ユージーンは察した様に目を伏せ、ジュストベルは「やはり」と息すら音にしない。
 ジュリアンはハリの横顔をまっすぐ見ていた。十一年前と同じ瞳で。

 ハリは一瞬沈黙した後、すぐにまた微笑みを整える。

「……もちろん。陛下のお言葉とあらば」

 しなやかで丁寧な返答だが瞳の奥には冷たい光。
 ──この男は、私の殻を破ろうとしている。

 その気配を察している眼だった。






始まりの議場
会議が始まる前の顔合わせにて、ユージーン&セィシェル親子はイリアーナを前にするとあたふたするの図
(実はイリアーナはユージーンの姪にあたり、セィシェルとは従姉弟関係になります)*詳しくはサイトのキャラクター相関図を見てね♪