アーサ王子の君影草 下巻 ~約束の箱庭にて、再び~

 内心ジュリアンの記憶がここまで鮮明だとは思っていなかったのだ。ここは慎重に──しかし、ハリが次の言葉を発する前にライオネルが先手を打つ。

「ハリ君。君が何者であれ、スズラン嬢の選択を侵すことは出来ない。君は彼女の〝過去に定められた婚約者〟である可能性はある。だが──未来は、本人自身が決める」

「……」

 ライオネルが皆を招集した理由はここにあった。
 記憶の曖昧だと言うハリに──公に、皆の前で敢えて線を引く為だ。ハリが記憶喪失を装っている可能性を薄々感じつつも、確証がない以上は断言できない。だからこそ 「個別ではなく、全員の前で」 決まり事を示したかったのだ。
 スズランを誰の所有物にもさせず、彼女の意思を絶対の基準にする。同時にラインアーサの心を守り、ハリが後々覆せない様に公的な枠組みを作るのが一番の目的だった。
 息子への贔屓はあるけれど、それ以上に大切なものを守れなかった十一年前の後悔がライオネルの根底にある。だから今回は絶対に間違えたくない。
 彼の声には静かな決意と、深い贖罪の影があった。

「記憶が曖昧であろうと、なかろうと。王家も、シュサイラスアの民も、彼女を守るために動く。それを忘れないでおくれ」

 柔らかいけれど、はっきりした線引。これによってハリは表立った行動を起こせなくなる。

「心得ました」 

 ハリは眉一つ動かさず静かに答えた。