───ここは何処だろう。
何も無い。ただの真っ暗闇だ。
何も見えない底知れない真の闇。
それは何処までも拡がっているようで、逆に窮屈にも思えた。
昔から暗闇は嫌いだ。
自分という存在が消滅しそうで恐ろしくなる。
手探りで腕を伸ばせば、その先には鏡に映した様に寄り添う暖かい手があった。
だけどもう、何処を捜してもその存在は見つからない。
暗闇は嫌いだ。
ほんの少しの光を求め、掌に握っていた〝物〟に力を込める。それは闇の中でも〝輪〟を象っていることが容易に想像できた。ぎこちなく指を開けば、その小さな〝輪〟が手の中で淡く輝きはじめる。
弱々しい光に照らされ、微かに浮かび上がる自身の輪郭。
鈍く戻ってきた感覚で漸く理解した。
だが理解した所で何もかも、どうでも良かった。
───いや、本当にそうだろうか。
自我さえも溶けて消えかけている闇の中で、考える意味などあるものか。
何度この自問自答を繰り返しただろう。
何も考えるな。
考えても無駄なのだから。
いくら後悔をしようとも、いくら懺悔をしてみても何の意味も持たない。
光を求める事事態が愚かな行為だったのだ。
だからもう何も望まない。
何もかもあきらめて、この冷たく静かな闇に溶けてしまえばいい。僅かに残る恐怖を抱きながら───。



