アーサ王子の君影草 下巻 ~約束の箱庭にて、再び~

「陛下。僭越ながら……ハリ殿のお話、どこか整いすぎているようにも聞こえました。ですが、今は騒ぎ立てる局面ではございませんな」

 ライオネルは小さく息を吐き、小声で返す。

「ああ。問い詰めるつもりはない。ただ……彼が何かを抱えていることだけは確かだろう」

 そこでジュリアンが決定的な違和感を思い出す。その視線はハリではなく、床に射す陽の線をじっと見つめている。

「……俺。ハリ殿と最初に会った日のこと、覚えてますよ」

「十一年前の……あの日のことなら俺も憶えてる」

 ラインアーサの言葉にジュリアンはこくりと頷く。

「ハリ殿は確かに……怪我による出血が酷く、朦朧としてました。けれど、尋ねられるより先にこう言ったんです。『早くしないとマリの気配を辿れなくなる』 と」

 その言葉と同時に視線がハリへ集まる。
 ジュリアンは淡々と言葉を重ねる。

「〝記憶が曖昧〟な者の口調ではなく、はっきりとした受け答え。あの時の顔は……必死でどこか焦りきっていました。むしろ記憶が曖昧になったのはその後、気を失ってから……そうだ、救護班の馬車の中でアーサの癒しの煌像術(ルキュアス)を受けて、その後…」

 一瞬、ハリの呼吸が止まる。だが次の瞬間には淡い微笑を取り戻していた。

「……本当に、思い出せないのです。ただ、その〝姉〟の存在だけは……胸の奥で消えずにいて」

 ハリの表情にごく小さな翳りがかかる。