アーサ王子の君影草 下巻 ~約束の箱庭にて、再び~

「アスセナス公のもとへ向かう旅に、自分が正式な〝使者補佐〟として同行し、必要な交渉資料や証拠の管理を一手に引き受けましょう」

 そして、視線をハリへ向ける。

「同時に、ハリ殿には──もしご負担でなければ、首輪飾りの来歴について、思い出せる限りの情報をお聞かせいただきたく存じます。身分の確定は、行く先々で交渉の材料となりますので」

 最後はラインアーサへの静かな忠誠の眼差しを向け、少し小声で話す。

「アーサ。お前とスズランちゃんの未来を守るためなら、俺はどこへでも同行するぜ。どうか、この俺に協力させてくれ」

「ジュリ、お前……」

「ジュリ君、本当に良いのかい? そうなると本来君が希望している職から遠退いてしまうのでは?」

「お心遣いありがとうございます。ですが陛下、自分はアーサ殿下へ忠義を尽くすべく考えです」

 ラインアーサへの忠誠心は空よりも広く、海よりも深い。それはジュリアンが幼い頃からずっと変わらない。

「相分かった。君の英断に心から感謝するよジュリ君。これからもアーサを支えてやって欲しい」

「仰せのままに」

「──ではハリ君。君の考えを聞いてもいいかい?」

 ライオネルの問に、ハリはゆっくりまぶたを伏せ、呼吸を整える。新月を含んだかの様な濁りない漆黒の瞳。だが奥底は氷の如く冷たい。

「……恐れながら。私には、シュサイラスアに来る前の記憶がほとんどありません。いえ……〝曖昧〟という方が正しいのでしょうね」