アーサ王子の君影草 下巻 ~約束の箱庭にて、再び~

「スズラン嬢の首輪飾りは外すことが出来た様だが……それは〝形を解いた〟だけに過ぎない。婚約そのものが破棄されたとは、まだ言えないのだ」

 静かに、しかしはっきりと。

「それでも俺は……」

 ラインアーサは言いかけるも続く言葉が出てこない。これは今の時点では変えることが出来無いからだ。事実として不動であり、為す術がない。
 誰もが沈黙に包まれたその時。ジュリアンは手にしていた羽根ペンをそっと置き、姿勢を正した。

「……陛下、皆様。僭越ながら、自分からもひとつ提案がございます」

 穏やかだけど、芯の通った声。ラインアーサが視線を向けるとジュリアンはいつもの様ににやりと口角を上げて続ける。

「まず前提として──アーサ殿下の御心は既にスズラン嬢に定まっている。そしてスズラン嬢の御心も。ならば、我々が進むべき道はその想いを現実に出来る戦略であるべきです」

 しっかりと現状を踏まえた言い方で、乱さず、揺らさず。

「問題は二つでしたね。一つはアスセナス公との接触。もう一つはハリ……失礼、ハリ殿の身分確認。この二つを、同時に進める方法を考えるべきかと」

「そうだね。何か手立てがあればいいのだが……」

 ライオネルは思案顔のまま顎に手を当てる。
 ジュリアンは手元の書簡束を整えながら続けた。

「幸い、殿下には信頼の置ける側近として、自分が同行できます」

 ラインアーサが僅かに瞳を見開く。