アーサ王子の君影草 下巻 ~約束の箱庭にて、再び~

 ライオネルは視線を誰にも向けず、敢えて宙を見上げる。

「だからこそ、気にかかっている。やはり何か返せない事情があるのではないか──と」

「……パパ」

 小さなスズランの声に、繋いでいた手を強く握り返すラインアーサ。

「返書がない以上──アーサとスズラン嬢が正式に新たな婚約を結ぶことは出来ない。これは感情の問題ではなく、国と国との約定だからだ」

 ライオネルは一度、視線をラインアーサへ向け僅かに柔らげる。

「となれば取るべき道はひとつ。小フリュイ公国へ赴き、アスセナス公本人と直に言葉を交わす。それ以外に、筋を立てる方法はない」

 ラインアーサの表情に決意の重みが増す。
 
「──もうひとつ、だ」

 ライオネルは今度こそハリを見やる。

「未だ確信には至っていない。だが、ハリ君。君がルゥアンダ帝国の皇子である可能性が極めて高い」

 この発言により、視線が一斉にハリに集中した。
 場が静まり返る中、彼は理由を示す。

「証となるのは、ハリ君とスズラン嬢……二人の首に嵌められていた、金細工の首輪飾り──。あれはルゥアンダ帝国において、皇家が取り認めた婚約を示す儀礼具。単なる装飾ではない」

 この件に詳しいジュストベルが大きく頷く中、ライオネルはゆっくりと言い聞かせる様に話す。ほんの一瞬、スズランへ視線を向けた。