アーサ王子の君影草 下巻 ~約束の箱庭にて、再び~

 空気が更にぴりりと緊張した。

「封じたのは小フリュイ公国の大公妃 リリィオス妃。彼女は自らを〝人柱〟とし、封印の力そのものに魂を結びつけた。だからこそ……彼女の血を引く者だけが封印に触れ、その力を揺るがすことができてしまう」

 そこまで言ったところでライオネルは息を飲んだ。喉奥に何か痛いものを押し込む様に。

「もう気づいている者も居るだろうが──スズラン嬢。君は、リリィオス妃の娘だ」

 ざわめきが走り、誰かの息を飲む音が小さく響く中ライオネルは続けた。

「つまり……封印を開きうる唯一の〝鍵〟が、君なんだ。君が意思せずとも、血が封印に反応してしまう。そして現在、サミュエルはその事実を利用しようとしている」

 重い沈黙。

「──リリィオス妃が命を懸けたからこそこの世界(リノ・フェンティスタ)は守られた。しかし同時に、彼女が君に〝血の継承〟という宿命を託したのも事実だ」

「……そんな」

 スズランの声は感情が読み取れない。理解が追いつかないのだ。ライオネルは最後にこう締める。

「君が悪い訳ではない。しかし……君の存在そのものが封印の均衡を左右する。この世界が次に揺らぐとすれば、その中心にいるのは……君なんだ」

 リリィオスが母親──。
 その事実は花が咲く音の様にやさしくて、同時に雷の如くスズランの胸を震わせる。