アーサ王子の君影草 下巻 ~約束の箱庭にて、再び~

 実の父、アスセナスから託された深い愛と、育ての父、ユージーンから注がれた日々の温もり。
 どちらも嘘ではなく、どちらも彼女の人生を守ってきた宝物だ。スズランの表情に確かな光が宿りはじめる。まるで胸の奥で、長く閉ざされていた窓をそっと開く様に。

「スズラン」

 スズランの耳に柔らかい声が届く。視線を向けるとラインアーサが柔らかく微笑んでいた。その顔を見て張りつめていたものが一気に決壊したスズランは唇を震わせたまま、堪えきれなくなってラインアーサの胸へ飛び込んでしまう。

「ライア…っ」

「君は捨て子なんかじゃあない。ずっとそう言ってきたけれど……今日、証明されたんだ。迎えに来られなかった理由がようやく届いた。その想いを……もう、ひとりで持たなくていい」

 ラインアーサが静かにそう告げた瞬間、スズランの胸の奥で何かがふっとほどけた。
 細い肩がふるふると震えている。ラインアーサは息をのんだあと、その背に両腕をまわして包み込む。

「……っ」

「……スズラン、大丈夫だ。全部受け止めるから」

 ラインアーサの言葉は、忍び泣く声と共に彼女の深い場所へ染み込んでいった。
 スズランがラインアーサの胸に飛び込んだ刹那。セィシェルがほんの僅かに複雑な顔をした。だがすぐに、それを飲み込んで小さく息を吐いて視線をそらす。ユージーンがセィシェルの肩を軽く叩いて同様に息を吐く。