アーサ王子の君影草 下巻 ~約束の箱庭にて、再び~

「……パパ……ほんとうに……愛して、くれてたの……?」

 その声は細く、今にも切れてしまいそうだった。
 大きな声で泣く訳ではない。誰にも気づかれない様な小さな空気の振動。
 ポタ、と一粒落ちた涙は紙の上でじんわり滲んだ。

 捨てられた子ではなかったという事実が、スズランの凍えていた心に暖かい風を注ぎ込む。長い間、誰にも言えずに抱えていた小さな孤独が、少しずつ溶けていく。
 幼かった自分が感じた痛み───。

 会いたかった。
 抱きしめてほしかった。
 優しく名前を呼んでほしかった。

 そして何より──何故何も言わずに去ってしまったのか、と。胸に熱い痛みが広がる。それでも愛されていたという事実が、逆にスズランの心を締めつけた。
 スズランは手紙を胸に押し当てて、はっとなる。弾かれた様に顔を上げてユージーンを見つめる。その瞳は潤んでいたが、いつもの様な何処か寂しげな表情ではなかった。

「……マスター……ごめんなさい……ずっと、私。マスターの事、本当のパパみたいに思ってて……大好きで……なのにっ」

 ユージーンは首を振る。

「スズ……それでいいんだ。その言葉をもらえるなら、俺はもう十分だよ」

 ユージーンの言葉にスズランはまた涙をこぼす。
 そして震える声で、小さく小さく言う。

「……本当のパパにも……ありがとうって……言いたい……」