アーサ王子の君影草 下巻 ~約束の箱庭にて、再び~

『 ユージーンへ

君がこの手紙を読んでいるということは、私は何も果たせぬまま旅途の果てにいるのだろう。


あの日、私たちを匿ってくれた恩も、あの子を預かってくれた厚意にも、私は何ひとつ返せていない。
どんなに言葉を尽くしても情けなく、私は私を赦す事が出来ない。
それはきっと君も同じだろう。


君には話せなかったことがある。

スズランは〝封印を解く鍵〟だ。
その存在が知られれば、あの子の人生は自由など持てぬまま理不尽に奪われる。

私は内乱が収束した後、迎えに行くつもりだった。
だが……私が動くほど、奴らは娘の居場所に近づくだろう。迎えに行くことが、娘を死に追いやるのだと悟った。

だから私は選んだ。
娘の傍に居たい気持ちを、胸の奥に塞いだまま。
君に託したのは、信頼ではない。信じるしかなかったという情けない父だ。

けれど君が、あの子を 〝鍵ではなく、一人の娘〟として迎えてくれる人だと、心だけは確かに告げていた。

もし今、君のそばであの子が笑っていたら、その笑顔は君が守ったものだ。

もし幸せであったなら、それは君が与えたものだ。

私は君に、すべてを託した。
そしてきっと、託してよかったのだと思う。

どうかあの子を───
どうかスズランを、生かしてやってほしい。


           アスセナス・f・フルール 』

 一枚の便箋にはそう綴られていた。
 長く追われ、日々葛藤の中で書かれたであろうその筆跡は僅かに振れていて、けれど想いが揺らぐことはなかった。