アーサ王子の君影草 下巻 ~約束の箱庭にて、再び~

 娘の命が狙われている恐怖。父として、もう自分ひとりで守り切れる段階ではないという恐怖が限界を超え、彼を決意へと押し出したのだ。
 例えそれが後戻りのできない願いなのだとわかっていても。

 スズランには〝未来〟がある。それだけは絶対に守りたい。だから自分が、最後の囮になる───。

「彼はそう言い残してスズに行先や別れも告げずに忽然と姿を消しました。しかし彼が……本当の父が娘をどれほど愛していたか。その叫びを、いつかスズにこの手紙を渡さなければならない。今日が、その日だと──」

 ユージーンは声を震わせながら、手紙をスズランの前に差し出した。

 スズランは幼い頃の記憶が曖昧で、父に捨てられた──そう信じて生きてきた。
 ユージーンはそんな彼女を、実の娘の様に抱きしめて、傷を拾い、涙を拭き、家族として育ててきた。セィシェルも彼女を妹の様に守った。
 血の繋がりよりも、日々の温もりと優しさで家族になった三人。だがユージーンの胸の奥には、届いた時から常にこの手紙の重みが居座っていた。

 深紅の垂れ幕の下、静かな光の中でスズランはそれを受け取る。紋様の入った封蝋は既に少し欠けている。手が震えていることにも気づかないまま、手紙を開いた瞬間──彼女の時間が止まった。