「────行きましょう」
逃げるみたいにそう言って、由良が俺の横をすり抜ける。
けれど、その足はどこか不安定で。
無理やり平静を装っているのが、痛いほど伝わってきた。
「……おい、待てって」
反射的に、腕を掴む。
ビクッ、と由良の肩が跳ねた。
その反応に、自分でも少し驚く。
……まるで、触れられることを怖がっているみたいな。
拒絶の、反応。
「蓮、さん……」
振り返った瞳は、ひどく揺れていた。
今にも泣きそうで。
なのに、泣くことだけは必死に堪えている顔。
胸の奥が、妙に苦しくなる。
……なんなんだよ。
さっきまで、あんなに嬉しそうに笑ってたくせに。
なのに今は、まるでこのネックレスを受け取ったこと自体を後悔してるみたいな顔をしている。
「……誰のこと考えてる」
気づけば、そんな言葉が口をついていた。
由良の瞳が大きく揺れる。
「え……」
「お前、今……別の誰か思い浮かべてただろ」
自分でも嫌になるくらい、声が低かった。
ただ不安だった。
さっきから、由良の中に“俺の知らない誰か”がいる気がして。
ネックレスを見つめながら浮かべた、あの泣きそうな顔。
あれが、全部俺に向けられたものじゃない気がして。
由良は何かを言いかけて、けれど結局言葉にならずに俯いた。
沈黙。
店内に流れる静かな音楽だけが、妙に耳につく。
……やめろ。
そんな顔されたら、これ以上追及できなくなる。
────そう思った、その時だった。
「あ、妹ちゃんじゃん」
その場に不釣り合いな、なんともゆるい声が辺りに響いた。


