「………早くねぇか?」
風を切り裂く轟音の中、レンさんの気遣うような声がヘルメット越しに響く。
スピードメーターの針は跳ね上がり、景色は光の矢となって背後へ飛び去っていく。
………けれど、私に恐怖はなかった。
「大丈夫、です」
むしろ、このくらいがいい。
脳を揺さぶる振動と圧倒的な速度。
これだけ速ければ、ツライ過去や今の自分の立ち位置……そんな薄汚れた現実から、一瞬だけでも逃げ出せるような、そんな気がしたから───。
「後ろ、見てみろよ」
「後ろ………?」
言われるまま、レンさんの肩越しにゆっくりと後ろを振り返る。
そこには、闇を切り裂いてどこまでも続く、チカチカと点滅する無数の赤いテールランプの帯。
地平線を埋め尽くすような光の列。
これ全部、バイク………?
「やっほ~」
すぐ後方で、余裕たっぷりに片手を離してひらひらと振る旭。
私は毒気を抜かれたように、控え目に手を振り返し、再び前を向いた。
…………すると、
「これが月華だ。……どうだ、カッコいいだろ?」
ヘルメットのシールド越しに目が合う。
そこには、誇りと、情熱と、純粋な喜びを湛えた、今日一番の笑顔があった。
夜風に乱れる髪さえも、街灯の光を反射して銀色に輝いている。
ドクン、
(…………すごい………カッコ、いい)



