「桃華……!?」
アイツの……桃華の声が、血生臭い路地裏に木霊する。
一斉に彼女へと注がれる視線。
───男がほんの僅かに眼光を緩めた、その刹那。
俺は一縷の望みを懸け、死力を振り絞って拳を突き出した。
はずが──────
「…………そんな攻撃、俺には効かない」
「───────ガハッ」
視界が火花を散らす。
肺の中の空気がすべて叩き出され、俺の体はなす術もなく冷たい地面へと崩れ落ちた。
視界が激しく揺れる。
こみ上げる熱い鉄の味を飲み込みながら、俺は地面を這い、必死に顔を上げた。
(………クソッ。)
────今のは、完全に意識を逸らした上での不意打ちだったはずだ。
なのに─────……
(………何だコイツ。全く、歯が立たない。)
なす術もなくねじ伏せられ、世界が絶望に染まりきった───その刹那。
「…………っやめて」
恐怖に怯え、震える声があたりに響いた。
……けれど、それは怯えよりも強い、ひたむきな拒絶の響きを帯びていた。
そして─────。
……倒れ伏した俺の視界が、急に濃い影に覆われる。
地面に這いつくばり、死の予感に震えていた俺の前に、小さな背中が割り込んだ。



