………まあ、言っていることはわかる。
本当は全部計算して動いていたし………
こうして向こうから「身内」として迎え入れてくれるのなら、姫──”モモカ”に近づく手間が大幅に省けたことになる。
私にとってはメリットしかないはずなのに。
胸の奥をざわつかせる、この奇妙な違和感は何だろう。
……なにか、物事がうまくいき過ぎている気がする。
まるで、見えない誰かの掌の上で踊らされているような……
「で、でも………みなさんに、迷惑かけちゃいます……!それに、蓮さんたちを庇ったのだって僕自身の意思だし………」
私はあえて、おどおどとした仕草を強調しながら身を引いてみせた。
ここで安易に飛びつくのは不自然だ。
………まずは「弱々しい一般人」としての逃げ道を作っておかなければならない。
────そう、思ったのに。
「僕は別に迷惑なんて思ってないけどね」
大晴さんが穏やかな笑みのまま、私の懸念をさらりと受け流す。
「俺もー。なんか、おもしろそうじゃん?」
裕太さんは、おもちゃを見つけた子供のような瞳でこちらをニヤニヤと見つめている。
「最近、ヒマしていましたもんね。」
李兎さんまでもが、メガネのブリッジを押し上げながら当然のように同意した。
「なっ?だから、………」
彼らのあまりにも軽快なノリに、私の偽装された反論は行き場を失う。
この人たち、正気………?
もし私が、”姫の護衛”以外の任務を受けていたとしたら。
本物の刺客だったとしたら。
───もう、そこに命はない。
「それに………一番の理由は、桃華だ。」
今まで、黙ってやり取りを眺めていたレンさんが、重く、確かな響きを伴って口を開いた
「橘花さん……?」
「桃華が、自分から"仲良くなりたい"そう、言っていたんだ。」
部屋の壁にもたれかかって腕を組み、静かに瞼を伏せたレンさん。
その声には、単なる義理や貸し借りではない、深い響きが混じっていた
「「「「え………」」」」
幹部たちの間にも、驚きの色が広がる。
あの内気で、どこか他人と距離を置いていた姫が……自ら他人を求めたという事実に、全員が息を呑んだ。
「……………俺は、桃華の願いは出来るだけ叶えてやりたい」
「……………」
そっと、目を開けたレンさんの瞳は、驚くほど真剣で。
……ああ、この人は本気なんだな、と直感した。
モモカのためなら、世界のすべてを敵に回しても構わない。
………そんな覚悟さえ滲んでいる。
「だから………」
レンさんの視線が、射抜くように私を捕らえる。
レンさんたちは、愛する姫──モモカのために。
私は、任務と”目的”のために。
一時的な、利害一致の契約。
私は一度だけ深く息を吐き、布団を握りしめていた力を抜いた。
そして、決意を固めたかのように、レンさんの真っ直ぐな瞳を見つめ返した。
運命の歯車が、後戻りできない速度で回り始めたのを感じながら───


