君は、狂愛の檻の中 ~偽りの君に恋をした~

♠ Yui





「…………ぃ!………い……おい!!」


まどろみの中、遠くで誰かが叫んでいるような気がした。
深い霧の底から引きずり戻されるような、ひどく不快な浮遊感。


「─────っ!?」


意識が戻った瞬間、ガバッと勢いよく上半身を跳ね起き上がらせる。


すぐさまその場の状況を確認しようと前のめりになった、その時だった。



「「イタッ」」


鈍い音と共に、額に強烈な衝撃が走る。
火花が散るような痛みに、思わず視界が歪んだ。


…………どうやら、
ゴツッ、と見事に誰かの頭と衝突したらしい。


「…………あ」

「…………」


お互い目をパチパチと瞬かせ、しばし沈黙。


「…………おっ、」

”おっ”?


痛む額を押さえながら、私はぼんやりとその声の主を見つめる。
視界が少しずつ鮮明になり、見えてきたのはレンさんではなく、別の少年だった。


「…………起きたーーー!!」

「えっ?」


思わず、言葉が漏れる。


「よかっ、たぁ………」


膝をつき、心底安心したように大きな息を吐いたその男。……いや、少年。


…………誰?

私の記憶にある「月華」の主要メンバーにはいない顔だ。
けれど、その必死な様子からして、敵ではないことくらいは直感で理解できる。


………というか、


「ここ、どこ…………?」


天井を見上げる。
見覚えのない、けれどどこか生活感のある簡素な部屋。
鼻をくすぐるのは、微かな消毒液と……古い建物の匂い。


「俺、蓮呼んでくる……!!」


「えっ、ちょ、待っ……………」


質問を投げかける暇もなかった。
彼は私の制止も聞かず、弾かれたように立ち上がると、バタバタとあわただしく部屋から出て行ってしまった。









───それから少しして、


「────由良っ!!」



静まり返った部屋に、怒号にも似た叫びが響く。
バンッ、と壁にぶつかるほどの勢いで、ドアが乱暴に開け放たれた。


………入ってきたのは、血相を変えたレンさんだった。


息を切らし、肩を大きく上下させている。
その額にはさっきぶつけた場所だろうか、赤紫のアザが痛々しく残っていた。



「………起き、たのか。無事で、よかった」


彼は私の枕元まで一気に詰め寄ると、崩れ落ちるように膝をついた。
その瞳には、今まで見たこともないような切実な安堵が揺れている。



「え、あの………」


あまりの剣幕と、彼から伝わってくる剥き出しの感情に、私は次の言葉を失ってしまう。