君は、狂愛の檻の中 ~偽りの君に恋をした~


「蓮くんっ!!!!」


静まり返った修羅場に、場違いなほど真っ直ぐで幼い叫びが響き渡った。



「「「桃華……!?」」」


アイツの……桃華の声が、血生臭い路地裏に木霊する。


一斉に桃華へ注がれる視線。
男がほんの僅かに眼光を緩めた、その刹那。

俺は一縷の望みを懸け、死力を振り絞って拳を突き出した。


はずが──────




「………無駄だよ。そんな攻撃、俺には効かない」

「───────ガハッ」


視界が火花を散らす。
肺の中の空気がすべて叩き出され、俺の体はなす術もなく冷たい地面へと崩れ落ちた。


視界が激しく揺れる。
こみ上げる熱い鉄の味を飲み込みながら、俺は地面を這い、必死に顔を上げた。



………クソッ。
今のは、完全に意識を逸らした上での不意打ちだったはずだ。

………何だコイツ。全く、歯が立たない。









「…………っやめて」


震える声。
けれど、それは怯えよりも強い、ひたむきな拒絶の響きを帯びていた。


倒れ伏した俺の視界が、急に濃い影に覆われる。
地面に這いつくばり、死の予感に震えていた俺の前に、小さな背中が割り込んだ。


「蓮くんは、だめ………」


ハッと顔を上げると、そこには桃華が立っていた。
細い肩を微かに震わせ、今にも泣き出しそうな顔をしながら──
それでも、俺を庇うように両手を広げて、死神の前に立ちはだかっていて──────。


「………桃華?」

「…………どけ、じゃないとお前ごと撃つ」



カチャ、と無機質な金属音が鳴る。
男が再び、今度は桃花の眉間に向けて、迷いなく拳銃の照準を合わせた。


………ヤバい。

俺のせいで、桃花まで………!
後悔と恐怖が混ざり合い、脳裏が真っ白に染まる。


叫ぶような衝動とは裏腹に、鉛のように重い体は地面に張り付いたまま離れない。

俺はただ、グッと拳を血が滲むほど握りしめ、
次に訪れるであろう絶望の衝撃を待つことしかできなかった。



時間が止まる。
男の指が引き金にかかり、死を告げる音が放たれようとした、その刹那─────