君は、狂愛の檻の中 ~偽りの君に恋をした~




…………だけど、何かがおかしい。




────静かすぎるのだ。

これだけの人数が倒れているのに、寝息のような呼吸の音すら、一切耳に届かない。



ただ、鼻を突く鉄錆のような匂いだけが、生温い空気の中に濃く漂っている。


立っているのは、俺たちと由良だけだ。


あまりにも異常な静寂に、背筋を冷たい汗が伝い落ちていく。










「そうだ、由衣……っ!!」


倒れている敵への不気味な違和感を、強引に頭の隅へ追いやる。



今の俺にとって、敵が全員倒れているなんて、そんなことはどうでもいい。

────優先すべきは、由衣の安全だけだ。



俺は床の連中を踏み越えるようにして、倉庫の奥へとがむしゃらに駆け出した。







「由衣! どこだ、由衣────!!」


張り裂けんばかりの声で、彼女の名前を叫ぶ。


……しかし、返ってくるのは不気味なほど冷たい自分の声の残響だけだった。




「クソッ、どこにいやがる……!」



物陰、資材の裏、古びたコンテナの隙間。



大晴たちと二手に分かれ、狂ったように倉庫中をひっくり返して探す。




どこかに縛られて転がっているはずだ────と、自分に言い聞かせながら。