君は、狂愛の檻の中 ~偽りの君に恋をした~

階下から響く怒号と、それに応えるように激しく身をよじるモモカ。
───その細い腰を、私は必死に引き戻す。



まずい……。
この子は今、自分が死ぬかもしれないことなんて一ミリも考えていない。
このまま行かせれば、死ぬか、あるいは最悪の人質になる。


"任務失敗"の二文字が脳裏をよぎり、私の内側にじりじりとした焦りが広がる。


力ずくで押さえつけるのは容易だ。
けれど、彼女の全身から伝わってくるのは、物理的な拘束なんて突き破りそうなほどに熱く、必死な鼓動だった。

どうすればいい?
どんな言葉を投げれば、この子の足を止められる?


冷徹な仮面の裏で、私は必死に、彼女の心を射抜くための"弾丸"を探し──。



一番残酷で………けれど、今の彼女を縛り付けるのに最も有効な一言を、私は喉の奥から絞り出した。




「…………蓮さんのこと、好きなんですか?」


核心を突く私の問いに、彼女の震える背中がピタッと止まる。


「………なんで、それを………」

「僕、人よりも目が優れているんです。だから、そういう感情にも敏感で………」


「っ、なら手を離してよ……!私は、蓮くんのところに行かなきゃ………」



バタバタと再び暴れだす彼女の腕を、逃がさないようグッと力を込めて抑え込む。



「ならあなたが行って、なにができるんですか?…………戦場では戦闘技術がないと、逆に足手まといになる」


「っでも、もう仲間がやられるのを何もしないで待つのはイヤっ!!!!」

「────────え、」



突き刺さるような、魂の叫び。
過去の傷跡を剥き出しにした彼女の気迫に、プロとして固めていたはずの指先が、わずかに戦慄した。


───その、一瞬の隙だった。
バッ、と彼女が栗色のツインテールを鋭い風になびかせ、迷うことなく校舎内へと走り出す。



守るべきはずの対象が、自ら危険な戦場へと飛び込んでいく。
私はその背中を、ただ呆然と見送ることしかできなかった────。









「………っ……」


頭を鈍器で殴られたような、凄まじい衝撃が脳を突き抜けた。


………今の、まるで”あの時”の私を見ているみたいだった。


ただぼーっと、世界から色が消えるのを眺めていた私に。
足掻くことさえ許されず、見ていることしか許されなかった私に。


”由衣は、悪くないよ”

”待ってて。いつか、必ず戻ってくるから”



耳の奥で蘇る、優しくて残酷な約束。
あの日、私の世界を壊したあの声。


私は─────。