「……よかっ、たぁ………」
ハア、と目の前の華奢な肩から、一気に安堵の力が抜けた。
「それにしても………」
「………なんですか?」
「あなた………蓮くんから聞いていた通り、本当に地味な格好してるのね。」
「あはは………そうですか?」
苦笑いを浮かべながら、内心で安堵する。
なんとか”無害な一般人”としての合格点はもらえた、のかな……?
「…………逆に、今時そんなキッチリ校則守ってる生徒なんていないんじゃない?」
「…………」
「せめて、前髪だけでも………」
サラッと白い手が、視界を遮っていた邪魔な前髪をすくい上げた。
カーテンが開くように急に明るくなった視界の中で、パチリと至近距離で桃色の瞳と目が合う。
「………っ、えっ///」
目を見開いたまま、石像のように固まるモモカ。
………その頬が、見る間に鮮やかな朱に染まっていく。
「あーあ、バレちゃった………姫、このことは他のみんなには内緒ですよ?」
先ほどまでの気弱な声音は捨て、艶を帯びた本来の声で耳元に囁く。
驚きに震える彼女の顎を指先でクイッと持ち上げ、視線を逃がさないよう固定した、その時─────。
「やめろっ!!!!」
不意に、階下の喧騒の中から切り裂くような悲痛な叫びが響き渡った。
「この声って………」
「蓮くんっ!!」
先ほどまでの甘い空気は一瞬で霧散し、モモカの顔から血の気が引いていく。
ガシャッと荒々しい音を立てて、彼女が屋上の低い柵から身を乗り出した。
「わわっ、危ないですよっ!?」
咄嗟に”由良”の顔に戻り、彼女の細い腰を後ろから抱きとめるようにして引き戻す。
………地上までかなりの高さがある。
こんなところから落ちたらシャレにならない。
「でもっ、蓮くんが!!」
身をよじる彼女の視線の先――校庭の片隅では、絶望的な光景が繰り広げられていた。


