─── ♠ ───
「これ、今着けてくんねぇ?」
俺の掠れた声に、由衣は一瞬驚いたように瞬きをして、それから嬉しそうに「はいっ」と満面の笑みで頷いた。
店内の生暖かい視線から逃げるようにして、俺たちは店の非常階段を上がり、ひと気のない屋上へと向かった。
爽やかな午後の風が、火照った俺の顔を優しく撫でていく。
遠くにうごめく人の波を背にして、由衣が俺の前に一歩、歩み寄った。
「頭、こっちに傾けてください」
「あぁ……」
少しだけ背伸びをした由衣の指先が、俺の耳たぶにそっと触れる。
……驚くほど冷たいその指先とは裏腹に、触れられた場所からじわりと熱が広がっていく。
至近距離で見つめ合う形になって、俺の心臓はさっきからうるさいほどに脈打っていた。
「……できました」
小さな手袋のような温もりを残して指が離れた瞬間、由衣が俺を見上げるように顔を上げて、ふっと微笑んだ。
────それは、俺が今まで一度も見たことがないような、どこか儚くて、胸が締め付けられるほど綺麗で切ない笑顔だった。
まるで、今にも目の前から消えてしまいそうな。
そんな不確かな微笑みを浮かべる由衣を見た瞬間、俺のなかの理性が音を立てて崩れ去った。
(どこにも、行くな──)
言葉にならない衝動に突き動かされるように、俺は由衣の細い腰を引き寄せていた。
「これ、今着けてくんねぇ?」
俺の掠れた声に、由衣は一瞬驚いたように瞬きをして、それから嬉しそうに「はいっ」と満面の笑みで頷いた。
店内の生暖かい視線から逃げるようにして、俺たちは店の非常階段を上がり、ひと気のない屋上へと向かった。
爽やかな午後の風が、火照った俺の顔を優しく撫でていく。
遠くにうごめく人の波を背にして、由衣が俺の前に一歩、歩み寄った。
「頭、こっちに傾けてください」
「あぁ……」
少しだけ背伸びをした由衣の指先が、俺の耳たぶにそっと触れる。
……驚くほど冷たいその指先とは裏腹に、触れられた場所からじわりと熱が広がっていく。
至近距離で見つめ合う形になって、俺の心臓はさっきからうるさいほどに脈打っていた。
「……できました」
小さな手袋のような温もりを残して指が離れた瞬間、由衣が俺を見上げるように顔を上げて、ふっと微笑んだ。
────それは、俺が今まで一度も見たことがないような、どこか儚くて、胸が締め付けられるほど綺麗で切ない笑顔だった。
まるで、今にも目の前から消えてしまいそうな。
そんな不確かな微笑みを浮かべる由衣を見た瞬間、俺のなかの理性が音を立てて崩れ去った。
(どこにも、行くな──)
言葉にならない衝動に突き動かされるように、俺は由衣の細い腰を引き寄せていた。



