「……蓮さん?」
何も答えない俺を不審に思ったのか、由衣が不安げに俺の袖を引く。
その小さな手の温もりが、今の俺には酷く痛かった。
───どうせその手は、最初からあいつのものなんだろう。
俺のなかの何かが、音を立てて冷たく凍りついていく。
「……触んな」
「え……?」
低く突き放すような俺の声に、由衣の身体がびくりと強張った。
差し伸べられた手を、俺は容赦なく振り払う。
「っ……、蓮、さん……?」
信じられないものを見るように、由衣の瞳が大きく揺れる。
……だけど、俺はそれ以上、由衣を見ることができなかった。
───これ以上ここにいたら、嫉妬で由衣をめちゃくちゃに壊してしまいそうだったから。
「……もういい。作戦だかなんだか知らねぇけど、お前ら二人で勝手にやれよ」
「待って、蓮さん! 違うんです、私たちは──」
引き止める由衣の声を置き去りにして、俺は背を向けた。
出口へと歩き出す俺の背中に、由良の、すべてを見透かしたような冷ややかな視線が突き刺さる。
(あいつの言う通り、俺の片思い、だったな……)
背後から聞こえる由衣が俺を呼ぶ声を、俺は背中で聞きながらその場を後にした。



