君は、狂愛の檻の中 ~偽りの君に恋をした~


「大変っ!! みんなが、襲われてっ……!!」



静寂を切り裂き、屋上に切迫した叫び声が飛び込んできた。
勢いよく扉を蹴り開けて現れたのは、栗色の髪をツインテールに結った一人の少女。


………ビンゴ。
この子が、今回の護衛対象か………



「襲われた!?……クソッ、どこのどいつだ」

「れ、蓮くん……!!」

「桃華、お前はここにいろ!! いざとなれば、そいつに守ってもらえ!!!!………とにかく、俺はアイツらに加勢しに行く!!」

「わ、わかった……!!」


レンさんの背中を追う必死な声が、屋上に虚しく響き渡る。


ドタバタと慌ただしい足音を残して屋上を去っていくレンさんを、心配そうに見つめるモモカ。


立ち尽くす彼女の瞳を、私はよく知っている。
任務で幾度となく見てきた、最も厄介で、最も純粋な光。



…………恋する女の子の瞳、だ。


そのあまりにも無垢な熱を、私は冷めた心でただ静かに見つめ返した。











バチッと、モモカと真っ向から目が合う。


「えっと、あなたは………?」

「あ、僕は………椎名由良です。昨日、この学校に転校して来て………」


まさか、こんなに早く接触できるとは。

………神様が、私に味方してくれたのかな。



「えっ………じゃあ、あなたが………」

「僕……?」

「蓮くんが言ってた、おもしれー奴……」

「蓮さん、そんなこと言っていたんですか………?」



「えっ、あ、まあ………あっ、私は橘花桃華。十代目”月華”の姫よ」


よろしくね、と柔らかな微笑みを添えて一礼される。
その仕草には、暴力が支配するこの場所に似つかわしくない、純粋な気品が宿っていた。


「えっ、あっ………こちらこそ、よろしくお願いします……?」



差し出されたその手は、硝煙の匂いも、引き金の重みも知らない。
私とは正反対の世界で、愛されて育った少女の体温を宿していた───