「……なんだよ。怒んねぇのか?」
拍子抜けして問いかける俺に、由良は壁に背中を預け、ポケットに手を突っ込んだままぽつりと言った。
「まあ、普通にムカつくけど。別に、怒りはしないよ……俺の願いは、昔からひとつだけだから」
「え……?」
「由衣が、幸せになること。それだけだよ」
"だから、由衣が幸せなら、別に俺はなにも言わない。───代わりに、由衣を傷つけるものには容赦しないけど。"
由良はどこか遠くを見るような目を一瞬だけして、それからまた俺に視線を戻した。
「あんな顔、見ちゃったらね。……好きな男がいることくらい、バレバレだよ」
「っ、」
由良の言葉に、喉がヒュッと音を立てた。
───由衣に、好きな男?
俺はさっき、由衣の困惑した顔を見て”自分の片想いだ”と勝手に諦めていた。
───だけど。
今の、由良のその言い方だと。
まるで由衣が想っている相手は───……
「今は”アイツ”の件で頭がいっぱいだから、由衣も素直になれないだけ。……だから、まだ諦めなくてもいいんじゃないの」
───それだけ言うと、俺の肩をポンと軽く叩き、廊下の奥へと歩き出していった由良。
残された俺は、由良の後ろ姿を見送りながら、さっきよりも激しくなる鼓動を必死に抑えようとしていた───……



