「っ、はぁ…………」
廊下に出た瞬間、俺は壁に背中を預け、ずるずるとその場に座り込んだ。
(……あんなこと、するつもりじゃなかったのに)
まだ唇にかすかに残る、由衣のぬくもりに心臓をバクバクと鳴らしながら。
───我ながら格好悪すぎて自己嫌悪に陥りそうになった、その時だった。
「……そんなとこで何してんの」
頭上から降ってきた聞き覚えのある中性的な声に、思わず心臓が跳ね上がった。
バッと顔を上げると、そこには、さっき「頭を冷やす」と言って出ていったはずの由良が立っていて。
「っ、お前、出かけたんじゃなかったのか」
慌てて立ち上がるが、自分の頬がまだ熱いのが自分でもよく分かった。
動揺を隠そうと視線を泳がせる俺を、由良はジッと見つめてくる。
……由良の視線が、俺がさっきまで覆っていた口元から、赤くなっているであろう耳へと動く。
そして、静かに閉ざされたアジトのドアへと向けられた。
────鋭いコイツのことだ。
俺のこの異常な様子と、部屋に一人残された由衣の状況を合わせれば、中で何が起きたかくらい、一瞬で察したはずだ。
(やべぇ……。殴られるか……?)
常に由衣の一番近くにいて、誰よりも彼女を気にかけ、俺たちさえ入れない絆で繋がっている由良だ。
由衣に手を出した(それも、キスまでした)と知れば、総長相手だろうが容赦なく拳が飛んでくるだろう。
……けれど、由良は拳を握りしめることも、怒鳴り散らすこともしなかった。
ただ、ふっと小さく、呆れたような、だけどどこか優しい溜息を吐き出しただけだった。



