────ただの、俺の淡い幻想だったんだ。
そう心の中で結論づけた、その時だった。
カツン、と足音が響いて、部屋のドアが開く。
そこに立っていたのは、後処理を終えた由衣と由良だった。
さっきまでの血生臭い空気を感じさせないほど、平然としているその表情が。
───余計に俺たちの住む世界との壁を感じさせて思わず胸がざわついた。
「おい……!!」
我慢できなくなったように、陽人が勢いよく立ち上がって二人を問い詰める。
俺もジュースの缶を握りしめたまま、吸い寄せられるように二人の前に歩み出ていた。
「戻ったか。……おい、訊かせてくれ。さっきの奴らは一体なんなんだ? 犯人の目的は、何なんだよ!?」
切羽詰まった俺の問いかけに、今まで冷静な表情しか見せなかった由良の顔が悔しそうに歪む。
「………ほんと、最悪だよ」
余裕なんてほぼ消え失せたように、苦しく吐き出される言葉。
「アイツら、正真正銘俺のところの奴だった。……知ってる顔もいたし、それは確かだ」
「……じゃあ、アイツらの目的は桃華さん?」
由衣が俺の心の声を代弁するように問いかけるが、由良は首を振って否定した。
「アイツが……ウチの組織が、そんなヘマをするはずがない。」
……確かにそうだ。
今日どころかここ数週間、桃華はここに顔を出していない。
奴らが桃華を狙う動機としては不自然だ。
「なら、なんで………」
苛立ちのままに言いかけた俺の言葉は、そこで止まった。
由良が、ゆっくりと顔を上げる。
……そこには、悔しさも、怒りも、焦りすらもなかった。
まるで心ごと仮面を被ってしまったかのような、完璧なまでの無表情。
何一つ感情の読めないその瞳に見据えられ、俺の背中に冷たいものが走る。



