「俺は高瀬蓮。……まあ、この学校にいりゃ嫌でも耳に入る名前だけどな」
───知っている。
耳に入るどころか、あなたのデータはすべて頭に叩き込んである。
──けれど、私はあくまでただの気弱な転校生で、彼とは初対面の設定だ。
「た、高瀬、さん……。あ、あの、よろしくお願いします……っ!」
私が慌ててペコペコと頭を下げると、彼はそれ以上何も言わず、ポケットに両手を突っ込んだまま私に背を向けた。
(これで、ファーストコンタクトは完璧に成功──)
心の中で密かにガッツポーズを決め、作戦の成功を確信した────その時だった。
ガチャリ、と屋上の重い鉄扉を開けた彼が、ふと足を止めて振り返る。
「……おい」
「ひゃいっ!?」
「明日も、その時間。……またここに来いよ」
「え……?」
驚いて目を見開く私を置いて、彼はフッと小さく鼻で笑うと、今度こそ屋上から去っていった。
「──────」
パタン、と静かに閉まる扉の音を見届けながら、残された私は、しばらくその扉を見つめたまま立ち尽くす。
(……まさか、初日で次の約束まで取り付けることになるなんてね)
完璧すぎる展開に、私はふうっと息を漏らし、男装のせいで少し窮屈なネクタイを緩めた。



