「ね、ねぇ……由良には由良のやることがあるんだし、もしそんなことしたら……」
───「由良」
当たり前に呼ばれる、男の名前。
俺のことは”さん”付けなのに、他の男は全員呼び捨て。
そんな嫉妬、もう何度もしてきた。
だけど──今までで一番、悔しくて、狂いそうだった。
───なぜなら。
この男が、今まで見てきたどの奴よりも、由衣と圧倒的に近い距離にいるから。
眉を寄せて必死に止めようとする由衣を、男はふっと薄く唇を持ち上げて流した。
誰も寄せ付けないような冷徹さの奥に、どこか目を奪われるような色気が滲む。
「もう、今ここにいる時点で今更だし……今のところアイツが動くような気配はなかったから、大丈夫だよ」
「っ、でも……!!」
「俺のこと、心配してくれんの?」
──── 男が由衣の顔を覗き込む。
……低く、鼓膜にまとわりつくような声。
「────でもさ、ここにいる方が早く接触できそうだし」
「っ、」
男の言葉に、由衣がハッと目を見開いて黙り込んだ。
───完全に、二人だけの世界。
俺の知らない”アイツ”という人物。
俺の知らない何かを、二人は共有している。
猛烈な疎外感と、はらわたが煮えくり返るような嫉妬が、俺の中で暴れ狂う。
なんでそんな顔でそいつを見るんだ。
(………俺を、見ろよ。)
───そして、男はさらに距離を詰めた。
「……じゃあさ。その姫は、由衣が守るとして」
由衣のパーソナルスペースに、男はなんの躊躇なく踏み込んでいく。
(……それ以上、触れるな)
叫び出したい衝動を、奥歯が軋むほど噛み締めて必死に殺す。
「……由衣のことは、誰が守るの?」
静まり返った部屋の中に、その言葉がぽつりと、だけど重く落ちる。
「また、俺に目の前で誰かを失わせたいの?」
───あまりにも、決定的な一言。
その場にいた全員の呼吸が、完全に止まったのがわかった。



