「あーあ、泣かせちゃった」
からかうような中性的な声。
細い肩をかすかに揺らして泣きじゃくる由衣を男───由良が、当たり前のようにその腕の中に抱きすくめていた。
………。
───は?
なんで、お前が由衣を抱きしめてる。
───そこは、俺の場所だろ。
今まで怒涛の展開すぎて全然意識が回っていなかったが、一気に脳血流が逆流するような強烈な不快感が這い上がってくる。
「……なんでお前まで、ここに居座ってんだよ」
自分でも驚くくらいに、由衣に向けるものとは全く違う、低い声。
……そうだ。
まず、お前が今この場所にいること自体が、最高に胸糞悪いんだよ。
だが、その男───いや、本物の"由良"は、フッと細い肩をすくめただけだった。
それどころか、腕の中の由衣の頭を大きな手でゆっくりと撫で、値踏みするような視線を俺に寄越した。
「───俺も、ここに入れてもらおうと思って」
脳が、瞬時に言葉を理解することを拒否した。
「っ、は……??」
あまりにもぶっ飛んだ発言に、怒りを通り越して素っ頓狂な声が漏れる。
は………?
(コイツ、何言ってんだ……??)
月華に、入る………?
なんで、そんなこと───
ひとりでガラにもなく動揺している俺をよそに、男は気だるげに、冷たい口を開いた。
「勘違いしないで。俺は、由衣がいるからここにいたいだけ。前みたいに敵対するつもりはないけど───別に、あんたらの味方になったわけじゃないから」
「─────」
───呆れ果てて、もう言葉すら出てこない。
なんだその、舐め腐った態度は。
「でも、俺は由衣の仕事を手伝うから、あんたらの姫を敵から守るし───」
由衣、由衣、由衣───。
さっきから、当たり前みたいにアイツの名前を呼ぶな。
───独占欲と苛立ちで視界が真っ赤に染まりかけたその時、慌てた様子の由衣が、男の服の裾をくいっと引っ張った。



