「今は、違います」
少し柔らかくなった声。
ふわっと、由衣が小さく笑みを浮かべる。
「今は、蓮さんたちのこと……ちゃんと、ひとりの人間として見ています。」
「!!」
──今度は、さっきの絶望とはまったく違う意味で、心臓がドクンと跳ね上がった。
(本当、か……?)
胸の奥がじんわりと熱くなる。
さっきまでの地獄のような心地から一転。
────あまりにも救われる言葉に、これが都合のいい幻聴なんじゃないか、と疑わずにはいられなかった。
───「ひとりの人間として」
それは、一緒に過ごした時間が無駄じゃなかったってことか?
ただの「駒」から、少しはこいつの特別な何かに、なれたんだろうか。
……もし、ほんの少しでも、由衣の中で俺たちの存在が大きくなってくれていたんだとしたら。
……それは、もう。
傷ついたプライドなんてどうでもよくなるくらい、今の俺には、これ以上ない最高の救いだ。
「謝って許されることじゃないのはわかってるし、こんなこと言える立場じゃないんですけど………もう少し、あと少しだけでも、ここに…”月華”に居させてもらえませんか…?」
バッと再び深く頭を下げて、声を振り絞った由衣。
───それは、本気で、心から謝ってるようにしか見えなかった。
──あのな、由衣。
お前は本当に、自分のことを低く見積もりすぎだ。
姿を偽ってた、それだけの理由で、俺たちがお前のこと嫌いになるわけねぇだろ。
普段あんまり人に関心がない裕太だって、お前がいない間、マジで心配そうな顔してたんだぞ。
……それに、俺自身。
お前が"女"だって分かって、どれだけ救われたか、お前はちっとも分かってない。
……お前は何も、悪いことなんてしてねぇよ。
俺たちを騙してたのは事実だけど、“月華”に危害を加えるようなことは一度だってしなかった。
──それどころか、いつだって身体を張って、俺たちのために動いてくれてただろ。
そんなやつ、どうやって憎めって言うんだよ。
悪いのは全部、お前にそんな無茶を強いた、裏にいる首謀者のクソ野郎だ。
「許さねぇ─────」



