まるで消えかかった命綱に縋りつくみたいに、俺はただじっと、由良のその横顔を見つめ続けた。
──すると。
俺の放つ、その異様なまでに熱を帯びた視線に本能的に気づいたのか───不意に、由良がこっちを振り向いた。
「………蓮さん」
静かに名前を呼ばれたその瞬間に、俺の心臓がこれまでにないほど大きな音を立てて跳ね上がる。
けれど、その口から放たれた声は、さっきまで俺の胸元に顔を埋めて泣きじゃくっていたあの弱々しい声よりも、ずっと大人びていて、どこか遠い。
頭上の月明かりを背負って静かに佇む由良の瞳は、もう、一滴の涙すら残っていなかった。
「……っ、なんだ?」
「………僕、急な予定が出来ちゃったので、そこに少し寄ってから帰ります。……なので、蓮さんはもう先に帰っててください」
ヒュッと、喉元が変な音を立てた。
さっきまであんなに震えていたくせに。
俺の服を掴んで、離れるなって言ったくせに。
今はもう、まるで何事もなかったみたいに線を引いてくる。
その突き放すような言葉が、俺の脳内に一気にじわじわと回っていた熱を、残酷なまでに奪い去っていく。
(……誰に、会いに行く)
俺の知らない”由良”が。
俺の決して立ち入れない場所へと。
俺の知らない誰かと一緒に、当たり前のように帰っていこうとしている。
視界の隅で、その様子を見ていた“カケル”が鼻で笑ったのがハッキリと見えた。
フッ、と小さく息を吐くみたいな、あからさまに俺を馬鹿にしたような軽い嘲笑。



