君は、狂愛の檻の中 ~偽りの君に恋をした~




「いつまで抱きしめてるつもり?」


背後から響いた冷徹な声と同時に、ぐわっと身体が宙に浮いた。



「っ、は?」



そのままドンッと乱暴に突き飛ばされ、気づいた時には由良の温もりが消えていた。


………急な喪失感に、行き場を失った腕がだらんと下がる。





慌てて振り返ると、そこに立っていたのは――あの日、由良を連れ去った男だった。


人を見下すような、氷のように冷たい視線が俺たちを射抜く。




「な、んでお前が………」



俺の問いを無視し、男は無言で倉庫内をぐるりと見回した。


その尊大な態度をじっと凝視していた陽人が、突然、パクパクと口を動かし始める。





「っ、お、おま、お前………」


───なんだ?




「お前──前に、俺たちを襲撃した奴だろ!!」

「「「「「っっっ」」」」」



陽人の叫びが倉庫内にこだました瞬間、その場にいた全員の身体がこわばった。


(――そうだ、そうだったんだ)



あの日、カフェで遠目に見た時、どこか既視感を覚えた気がしたのは。

───一度、会ったことがあったからなんだ。






半年前、由良と出会ってすぐの日。


月華は族なんていう生ぬるいモンじゃない、本物の"なにか"によって襲撃された。




あの時、俺と、俺を庇った桃華に拳銃を向けた───恐ろしく"死の香り"がした男。


その男が、目の前にいるこいつか――!!








「「「「「!!!!」」」」」

「─────」



バッと一斉に戦闘態勢に入る俺たち。

しかし、男は眉一つ動かさず、ゆっくりと口を開いた。



「別に、戦いに来たわけじゃないから」


証拠だと言わんばかりに両手を上げ、わざとらしく降参のポーズをとる。




「……じゃあ、なんだって言うんだよ」



そんな簡単に信じられるわけがない。

族の頂点に立つ俺たちが、かつて敵対した男を、おいそれと受け入れるはずがなかった。




「…………」



だが、ギラギラとした俺たちの警戒心を、男はいとも簡単にスルーする。



そして――トンッと、隣にいた由良の背中を軽く押し出した。