(……ふざけんなよ、何なんだよこれ)
喉の奥の暗闇で、低くドロドロとした感情が激しく渦を巻く。
お前はさっきまで、俺の手を必死に掴んで。
子供みたいに泣きじゃくりながら、“離れないで”って俺に縋りついてたんじゃねぇのかよ。
なのに、俺の知らない暗闇の向こうへ、俺の手を振り払って勝手に帰っていくな。
ギリ、と骨が鳴るほどに、俺は自分の両拳を強く強く握りしめる。
この胸を引き裂こうとしている衝動は、裏切られたことへの怒りなのか。
それとも、別の男に対する無様な嫉妬なのか。
もう今の俺には、それすら自分自身で判断がつかなくなっていた。
───ただひとつ。
胸の奥で暴れ出した感情だけが、どうしようもなく熱かった。
さっきまで、確かに俺たちは、この広い世界に二人きりしか存在していないはずだった。
耳元を優しく掠めていく潮騒の響きも。
彼の細い背中を静かに照らし出していた灯台の白い光も。
身を切るような夜の冷たさすらも──その全部が、俺と由良だけのものみたいに感じていたんだ。
……なのに。
この“カケル”とかいうガキが現れた瞬間。
俺と由良の間にあった空気は、まるで全部夢だったかのように一瞬で消え去ってしまった。



