───だけど。
必死に抱きしめ続けて、ふと気づく。
俺の腕の中にいる由良の身体は、驚くほど冷え切っていた。
それに───普段なら控えめに抱きしめ返してくるはずのその手が、だらりと下がったまま、ピクリとも動かない。
別に、拒絶されているわけじゃない。
だけど、抱きしめ返してもくれない。
まるで、俺に抱きしめられることを、自分に許していないかのような───。
そんな、痛々しいほどの硬さが、腕の隙間から伝わってくる。
「……由良?」
あんなに待ち焦がれいたはずの由良が、すぐ近くにいるのに。
───なぜか、ものすごく遠くにいるような気がして、俺の胸に冷たい不穏が走った。
「「「「蓮!!!!」」」」
───張り詰めた空気をぶち破るように、ドタドタと慌ただしい足音が響く。
階段を転げるように下りてきた大晴たちが、一階の溜まり場へと雪崩れ込んできた。
そして───。
「っ、え………」
「「…は、?」」
俺と、俺の腕の中にすっぽりと収まっている由良を視界に捉えた瞬間、あいつらの動きが同時にピタッと止まる。
「……蓮。いったい、どういう状況ですか」
眼鏡の奥の瞳に驚きを滲ませながら、探るように俺を凝視する李兎。
普段は冷徹で、普段ら滅多に感情を表に出さない李兎が、ここまで分かりやすく戸惑うなんて珍しい。
───あいつのそんな表情に驚きかけた、その時だった。
ふと、一つの事実が頭を過る。
───そうか。
知らないんだ、こいつらは。
今、俺が壊しそうなほど強く抱きしめている、この目を疑うような美少女が。
あの、いつも地味でオドオドしていた頼りない"椎名由良"だとは───。
「え、まじ……? あの女嫌いで有名な蓮が女を??……ってか、その女の子マジで誰?めっちゃかわいいんだけど」
まるで宇宙人でも見るかのような目で俺たちを見る裕太。
その、由良を値踏みするような視線に触れた瞬間、俺の奥底でどす黒い独占欲が跳ね上がった。
───見せたくない。
こんなに可愛くて、華奢で、守ってやりたくなるような姿をした由良を。
誰の目にも触れさせたくない。
大晴たちの視線から完全に遮断するように、俺はより一層強く、由良の身体を自分の胸へと引き寄せた。
───その、瞬間だった。



