────すると、つまらなそうに視線を逸らし、ポケットに両手を突っ込んでいた彼が不意に口を開いた。
「……おい」
「ひゃ、ひゃいっ!?」
急に声をかけられ、私はまた大袈裟に肩を跳ね上がらせる。
彼はそんな私を深緑色の瞳で見下ろすと、低くぶっきらぼうな声を鼓膜に落とした。
「……お前、名前なんて言うんだよ」
───名前の催促。
ターゲットとの距離が、また一歩縮まった。
私はわざと頼りない笑みを浮かべ、上目遣いで彼を見つめる。
「ぼ、僕ですか……? 僕は……『椎名 由良(しいな ゆら)』って言います……!椎の木の椎(しい)に、名前の名(な)、理由の由(ゆ)に、良いの良(ら)って書きます!!」
男子生徒として怪しまれないよう、少し喉を絞った低めの声で、けれどはっきりとその名を告げる。
「……そこまで詳しく聞いてねぇよ」
またしても空気を読まない情報量を付け足すと、彼はフッと小さく鼻で笑った。
───その綺麗な顔に浮かんだ笑みに、私の胸がほんの一瞬だけ、任務とは違うテンポで跳ねた気がした。



