───周りの目なんて、どうでもいい。
"総長"に相応しくない格好をして、下っ端たちにどう思われようと。
そんなこと、今の俺には微塵も関係なかった。
「っ、は、」
早く。一秒でも早く───……!
ほぼ階段を転げ落ちるようにして、一階の溜まり場へと向かう。
もつれる足を無理やり動かし、重い扉を勢いよく蹴破った。
「っ、由良!!!!」
部屋から漏れ出した眩しい光に、思わず目を細める。
だが、その視界の端に───ずっと待ち焦がれていた、一筋の光が映った。
「……蓮、さん───」
その声が、幻じゃないと確信した瞬間。
俺の身体は、思考より先に動いていた。
怒りなんて、一瞬で消え失せて。
ただ、目の前から消えてしまったあの日の絶望が、一気に押し寄せてくる。
「っ、由良……!」
驚いて息を呑む由良の身体を、壊すような勢いで抱きすくめた。
腕の中に、確かに感じる温もり。
────二人の間に、隙間なんか一ミリもつくらないように。
「っ……れん、さん、くるし、い……」
「離さねぇ」
由良が小さく声を漏らすけれど、腕を緩めることなんてできなかった。
……今ここで腕を解いたら、また目の前で消えてしまう気がして。
細い肩に顔を埋めると、ずっと恋しかった由良の匂いが胸いっぱいに広がる。
────その瞬間、張り詰めていた心の糸がぷつりと切れた。
(……あぁ、本当に、戻ってきたんだ)
背中に回した俺の指先が、情けないくらいに小刻みに震えていた。
最強だの総長だの言われる俺が、今、こいつを失う恐怖で泣きそうになっている。
昔の俺だったら信じられないよな。
俺が、一人の女にこんなに骨抜きになっているなんて………
「……どこ行ってたんだよ。バカ、野郎……っ」
絞り出した声は、ひどく掠れていた───…



