君は、狂愛の檻の中 ~偽りの君に恋をした~

─── ♠ ───





お互い口を開くことなく、ぶらぶらと街の大通りを歩いていたその時。


────ふと、ある店が目に留まった。



”Celestia”

と書かれた、歩道沿いの小さな雑貨店。



おそらく、ジュエリーショップなのだろう。
ガラス越しに、淡い光を反射するアクセサリーが並んでいる。





「…………ちょっと、寄ってもいいか」

「あ、はい……」



隣を歩く由良に声をかけ、俺は半ば無意識に店の中へ足を踏み入れた。



カラン、と澄んだベルの音が響く。

落ち着いた照明に照らされた店内は静かで、外の喧騒が嘘みたいだった。





「………いらっしゃいませ。どのようなものをお求めですか?」


どこにでもある接客用の笑顔。
普段なら適当に流すような言葉なのに、今日は妙に意識に引っかかる。




……別に、深い意味なんてない。


ただ、さっきから由良の横顔を見ていると、何か形に残るものを与えたくなっただけだ。





「…………彼女に似合う、アクセサリーを」



えっ、と小さく由良が息を呑む。


驚いたように見上げてくるその視線を、俺はわざと見ないふりをした。






「かしこまりました。……では、こちらのピアスなど、いかがでしょうか」



店員に案内されたガラスケースの中には、無数のピアスが並んでいた。




華奢なもの、派手なもの、宝石が光るもの。




その中で、ある一つだけがふと目についた。





「…………これ」



手に取ったのは、小ぶりなシルバーのピアス。


耳元に沿うような繊細なデザインで、中心には細い三日月が刻まれている。

月の下には、小さな黒石。



派手じゃないのに、妙に目を奪われるピアスだった。



……なぜか、それだけが最初から“由良のもの”に見えた。






「……綺麗」


隣で、由良がぽつりと呟く。

その声が思ったより柔らかくて、胸の奥がわずかに熱を持った。




「これにする」


ほとんど即決だった。

迷う理由なんてなかった。
コイツに似合うのは、これしかない。


────そう思って、店員にピアスを差し出した、その時だった。