シャンデリアの光がまばゆく輝き、きらびやかな音楽が流れる。
 都心の一流ホテルで開かれた財界パーティには、国内外の要人や大企業の役員たちがずらりと集っていた。
 皐月は淡いブルーのイブニングドレスに身を包み、会場の片隅に立っていた。

 ドレスは上品に仕立てられているのに、胸元のネックレスを指先で弄る仕草には落ち着かない心が表れている。
 笑顔を作ろうとしたが、頬が引きつる。

 ——どうしてここに来てしまったのだろう。
 本当は、玲臣と顔を合わせたくなかった。けれど父の命令で欠席するわけにはいかなかった。



 そのとき、会場の中央にひときわ注目を浴びる人影が現れた。
 黒いタキシードに身を包み、背筋を伸ばして歩く玲臣。
 堂々とした姿に、周囲の視線が集まる。

 皐月は息を呑み、グラスを握る手に力を込めた。

 ——やっぱり、素敵。
 でも、私の隣に立つ人ではない。

 視線を逸らそうとしたとき、玲奈が彼に歩み寄る姿が見えた。
 シャンパンゴールドのドレスをまとい、軽やかな笑みを浮かべている。

「玲臣さん、今夜もお忙しいのに来てくださって」
「……高瀬」

 玲臣が一瞬だけ皐月を探すように視線を巡らせた。
 その隙を逃さず、玲奈は彼の腕にそっと手を添える。

 会場の照明が二人を照らし、まるで並ぶのが当然のように見えた。
 周囲の人々が「お似合いね」と囁く声が、皐月の耳に突き刺さる。



 胸の奥がひりひりと痛んだ。
 皐月は慌ててグラスをテーブルに戻し、出口へと歩き出す。
 ドレスの裾が揺れ、ヒールの音が大理石に乾いた音を刻む。

「皐月」
 背後から低い声が追ってきた。

 振り返れば、玲臣が立っていた。
 玲奈が少し遅れてついてくる。

「どうして逃げる」
「……逃げてなんて」
「なら、俺の目を見ろ」

 玲臣の声は強く、でもわずかに震えていた。
 皐月は息を飲み、視線を合わせられずに俯いた。

「お前……本当に、俺から離れたいのか?」
「……私は……」

 言葉が喉に詰まる。
 本当は「離れたくない」と叫びたかった。
 でも、玲奈の言葉が耳に蘇る。

「彼には好きな人がいるのよ」

 ——なら、私がここにいるべきじゃない。

「……失礼します、副社長」

 礼をして、背を向けた。
 玲臣の表情は、見なかった。見られなかった。



 皐月が会場を離れたあと。
 玲臣は拳を固く握りしめ、残されたシャンパンの泡を見つめていた。

 玲奈がそっと微笑む。
「彼女、最近ちょっと様子がおかしいでしょう? 無理してるんですよ」
「……何を知ってる」
「ただ……心配なだけ」

 玲臣の視線が鋭く光った。
 けれど玲奈は怯むことなく、まるで正しいことを言っているかのように微笑んでいた。

 豪奢な音楽の中で、皐月の背中が遠ざかっていく幻が、玲臣の目に焼き付いていた。